『百弥次』覚え書き

『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多さん』思い出しつつ、2005年8月19日現在の個人的覚え書き。記憶違いのところ、曖昧なところ、適当に書いてるところ、沢山あります。今後書き換えたりするかもです。ネタばれあります。ご注意。



舞台中央に懐古な風味のタバコ屋。
店内両脇には、雑貨屋のように商品がこづみ上げてある。

開演前のアナウンス。つボイノリオ氏の声。
「携帯の電源はお切り下さい。開演いたしますといきなり非常灯が消えますが、非常時には点灯いたしますのでご安心下さい。非常時にご安心くださいというのも変ですね。それではいよいよ開演です!『百人芝居◎真夜中の弥次さん喜多…』
つボイ氏の「喜多」の声にかぶせて、弥次さんの声で「喜多さーん」
同時に暗転。

喜多さんも側にいる様子。

弥次「静かすぎて、何にも聞こえねぇ」
喜多「何も聞こえねぇから、静かなんだろ」
弥次「あ、そうか」
喜多「あ、そうか、じゃねぇよ」
弥次「あれ? さっきもおんなじこと言わなかったっけ?」
ここがどこだか分からないので、誰かに聞いてみようということに。

薄明かりつく。タバコ屋がぼんやり見える。弥次喜多は客席に背を向けて、店に近付いていく足取り。同時に、タバコ屋、手前にゆっくり出てくる。どうやら電車のよう。中国人民風の赤い帽子をかぶった運転手の姿が見える。

弥次喜多「こんにちは」
運転手「いまは夜じゃよ」
弥次喜多「こんばんは」
運転手「はい、こんにちは」
弥次喜多「え?」
運転手「ぷぅ〜」

とぼけた雰囲気の会話が続く。でも辺りは暗く、周囲に気配があるような。何だか得体のしれない緊張感。

弥次喜多「ここはどこですか?」
運転手「知らない」
弥次「店かまえてりゃあ、ここがどこかくらい分かるだろ」
運転手「かまえてない」
弥次喜多「え?」

運転手「ぷっしゅーチンチーン」
運転手「いごくんよ。これ」
弥次喜多「乗り物かァ」

喜多「どこいきだい?」
運転手「しぃー」
といいながら、行き先表示の「タバコ」の文字をばらして、組み換え、「死」という文字にする。
運転手「死!」

喜多、何だか納得する。
弥次は漢字が読めず、意味が分からない。

運転手「あんたら弥次喜多かえ?」

運転手「いたねぇ、昔」
一瞬、「夢か死」という画像が背後に。

弥次「え?昔?」

運転手「むかしむかし」
また瞬間画像。
「夢か死
 無か死」

喜多は、ゆっくりと電車の下手がわ側面の暗闇に消えていく。
弥次、運転手と話していてふと横を向くと喜多がいない。

弥次「あれ?喜多さん?」きょろきょろ。
運転手「むかし、そうゆうひとりがおりました」

左右から、異様な数の人間が出てくる。電車をはさんで舞台の両翼をうめつくす。顔かお顔。(弥次はそれに気付かない?)
運転手も1人から3人に増えている。
弥次「あ、増えやがったな」

運転手「寂しいね」
みんな「寂しいね」「寂しいね」「寂しいね」「寂しいね」
いくつかの塊となって声がこだまする。大人数での「寂しいね」というセリフが、すごい切なさ。

弥次「声がいくつも聞こえらァ」
運転手3人「声がいくつも」
みんな「声がいくつも」「声がいくつも」「声がいくつも」「声がいくつも!」
洞窟の中でだんだん厚みをましてくる反響音のように、弥次のセリフが繰り返される。

(注:なんだか重要なやり取りをすっかり忘れている…)

弥次、耳を押さえる。胸を押さえる。
弥次「胸が!」

弥次「痛ぇや…」


運転手「喜多はもういない」
みんな「喜多は」
全員、柄付きの、紙で出来たお面を取り出す。喜多さんの顔。
みんな「もういない!」
お面を反転させると、どくろ。
お面のシーンは一瞬。即座にみんな左右に消えていく。

真正面を向いていた電車が横向きに。

舞台中央前の方でなんて言ってたっけ?何とかと叫んでる弥次さん。横向き電車はトビラが閉まっているけど屋台のよう。屋台の前面に5人の男たち。みんな弥次喜多の衣装を羽織っている。
男1「何わめいていらっしゃる」
男2「何うめいていらっしゃる」
男3「何さけんでいらっしゃる」
男4「何おらんでいらっしゃる」(あと忘れた。5人とも「何…していらっしゃる」と弥次さんに言う)
男全員「何しゃる何しゃる」
客席の方を向いていた弥次さん、憤って後ろの5人を振り向きざまどなる。
弥次「何しゃる何しゃるうるせぇ!!…って?」
屋台に気付く。
弥次「何ソレ?お店?」

男のひとり、赤提灯を取り付ける。
トビラをひらくと紺色の暖簾。白字で「やきとり」と書いてある。

店のカウンターに座った喜多さんの後ろ姿。弥次喜ぶ。
弥次「こんな所にいやがったのかぁ」
喜多「おお、弥次、ここぁ、イイ店だぜぃ」
男5人「イイ店だ、イイ店だ」
喜多「イイ酒だ」
男全員酒のむ。「イイ酒だ」「イイ酒だ」
弥次「何のんきに酒なんか飲んでやがるんでぃ、おいら心配したんだぜ」
喜多と男5人「じぃん、イイやつだ。お前いいやつだ」涙を拭う素振り。
弥次「よーし、おいらもいっぱい…」
喜多「こんな店で」
弥次「え?」
喜多「こんな店で飲みたかったなぁ」
弥次「飲みたかったなぁ?」

喜多「弥次ぃ、おいら、なんだか死んじまったみてぇだ」
弥次「え?」
喜多「ちなみに足はねぇ」
喜多、着物の足元を手繰りあげる。確かに足はない。ああっ!?という感じで、弥次、喜多の足元へ駆け寄る。
喜多「ついでに言っとくと、弥次、おめぇも死んでるぜ」
弥次「ええっ!?」

みんな「弥次喜多は死んだ」「弥次喜多は死んだ」「弥次喜多は死んだ」「やしきたかじんだ!」
弥次「やしきたかじん!?なんだぁそりゃあ!!」
先ほど左右に消えていった大人数が柄付きのお面を持って出てくる。やしきたかじんのお面。顔、顔、顔。前後で列を作って、舞台を横断。

どのタイミングだったか?暖簾を左右にひっぱると、「やきとり」が「やじきたひとり」に。

やしきたかじんのお面たち、左右に行進して袖へ消えていく。にぎやかな音楽。まるでドリフの舞台大転換のように、電車に乗ったまま喜多、上手へ運ばれていく。陽気な雰囲気の中、やしきたかじんの洪水の向こう側で、なんだか黄泉側の世界へ行ってしまうよう。

弥次さん、裾をまくりあげて、やしきたかじんの合間をぬい、向こう岸へ渡ろうと消えていく。いつの間にか、二人芝居弥次喜多のセットが運ばれてきている。障子。棚。布団。薬ビン。大にぎわいが終わって、二人芝居の最初のようなシーンに。


(中略)


さあ伊勢へ出かけよう。
二人芝居では、弥次喜多だけで踊るところ。部屋セット撤収。
背後の垂れ幕がひかれると、天井いっぱいまで障子が存在。そのひとつひとつが観音開きに開いて、中に人が沢山! 視界中に人があって、圧倒。そして爽快感。白いプロペラを持っていて、ブンブンと回転させる。出発進行!なイメージ。
(手前の地上の人たちも、プロペラ回してたっけ?)
「そらそらうみかぜやまやまくもくも、ぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶんぶん、おーーーーーーー」とか、そうゆう歌詞を全員で。
こん時、弥次喜多の二人はどこにいたっけ?

白い、トビラの枠だけのようなものを持ったヒトたち、中央手前の弥次さん喜多さんから広がるようにVの字に配置。喜多「いくぜ!」弥次喜多二人、左右に別れてトビラの奥へ進んでいく。まるで鳥居をくぐってあちらの世界へ行ってしまうよう。ここらへんから曲調も変わり、演出的にかっこよくて鳥肌もの。二人が通った後は、トビラの持ち人、複雑な動きで左右へ消えていく。Vに広がっていく二人の距離。途中から、人の動きにまぎれて二人の姿もかき消える。白枠の持ち人、左右袖へ消えたと思ったら、また左右へ駆け抜けていく。入り乱れる人、記憶、思い。

白いのぼりを持った人物が5、6人、行進。のぼりには「アイスクリーム」「ヒトゲノム」などと書いてある。(あと何だっけ?)のぼり部隊の行進の後ろには、明らかにニセモノな弥次喜多の二人が物見遊山な感じでキョロキョロと。上手から下手へ。下手から上手へ。

舞台後ろのほうからダンス配置に。定位置についた人たちは曲に合わせてゆっくりと左右に体をゆらす。腰からゆらすんじゃなくて、体全体をゆらす。重心かかってない足は床から離すくらいまっすぐな体のまま。それがなんとなくトランスな感じ。段々人が増えてきて、舞台全体を人が埋めつくす。弥次さんと喜多さんもいっぱい。
曲がテンポアップしたのをキッカケに?皆いっせいにダンスが始まる。高速でかっこいいパタリロ音頭みたい(←ちょっと違う)。とぼけた感じなんだが、生理的に気持ちのいい動き。でも、なんだか生理的に恐い感じも。なんでだろう。
背後ではランダムな漢字の大群の浮遊映像。二人芝居では、確か伊勢までの地名が凄いスピードで映し出されていたと思う。
踊りは、前列、中列、後列(それとも前後だったか?)とブロック分けされてるよう。ダンスのローテーションがイッコずつずれているらしく、そのずれも心地よい。後列は長身の男性ばかりなんだが、途中で前後入れ替わり、ダイナミックなパタリロ音頭が楽しめる。自分の体中がそのリズムでうめつくされて、うっとりと陶酔感を味わいつくした頃にダンス終わる。敬礼のポーズで流し目をくれながら、左右に全員消えていく。ゆっくりゆっくり。潮がひくように。残されたのは敬礼のポーズで固まった、本物の弥次さん喜多さん。中央付近で踊っていたのだ。
まるで無意識の世界で、「全」になって踊っていた「弥次喜多」が、ゆっくりと覚醒し、「個」に戻ってきた様。ぽつねん。切ない。でも、「全」であった時も、弥次さん喜多さんは切なく寂しさの中にあったんだという事に気付く。愕然。