『変身』

変身 (新潮文庫)

変身 (新潮文庫)

いつも家族の事を思って控えめに振る舞っている毒虫グレゴールの、時折見せるケモノじみた振る舞いに、妙に愛らしさを感じてしまう。例えば、母親をおののかせないように普段は自分の恐ろしい姿を麻布に隠しているのに、彼女が掃除のために部屋を水浸しにした事に機嫌をそこね、ふてぶてしく寝椅子の上でその身をさらしたり(←それだけでラブリー)。あと、グレゴールの世話担当の妹が、自分に黙って部屋の清掃をした母親に癇癪を爆発させるんだけど、その修羅場を目の当たりにさせられて怒って口をしゅっと鳴らせたりもする。些細なことだけどそんな仕種がどうにも可愛らしくて仕方がない。
こういった私の捉え方は人間に対してではなく、ペットに対する感情に近い。でも、グレゴール君自身も、人間のように扱ってほしいなんていう思いを最初から持ってないように見える。そんな諦めと順応性のかたまりが最終的に行き着くのがああゆう結末なんだなぁと考えると、ラストのザムザファミリーの心中の清々しさと相まって、とっても寒々しい読後感。