『ゼンマイ島』


優れた怪盗、怪しげなおべべ。みすぼらしい花環、立ちん坊のこより。お祭り騒ぎの渦巻きの片隅。私は団子を頬張って立ち尽くす。見上げた空から降って来る楽しげなゼンマイ鳥。赤い赤い赤いお日さまは細くなって、もうけぇるとゆ。砂ぼこりはビードロのヘリにかかる。


相合い傘、にわか雨、下駄の音、大勢の子供達。男の先生はたいそう清潔好きだった。襟はいつも白かった。夜を話す少年。ちびたチョークでトタンに馬をえがく。三つ子の子馬。止まらなかった分娩。風がたって、闇が漕いで、霧はあの子のほっぺたに触れた。お月さんどうしても最後まで見たいとゆ。風呂釜の髪の毛いっぽん、はさんで庭の草に置いた。お祝いの歌がはしゃいで、道しるべの石が転げて、抱きしめた産毛が震えて、たまんなくなって駆け出す。くるぶし痛い。こけないようにねと囁くお姉。「私のトバリで夜が降る。」


人間がどぉっと押し出されて来た。1本線をひいてメンチ切って、まさるの腕を蚊がなぶって、遠いところ、ぼんやり霞む、あの山をずっと見ていたい。咲いている、あの子の雫。名前を知りたい。あの泥棒。憧れちゃ言わん。ただ見ときたいだけだ。きっとどこかで落っこっちゃうけ、それを嘲笑いたいとよ。


お花きれいなので明日もまた来よう。通路のいたるところ咲き誇ったように汚れが吹いちょお。ああゆうものがきれいと思うンよ。気持ち悪くなるよなもんが好きなの。あそこにほお擦りしたらアンタ身震いするしょ? そうゆうの想像して、あのセンセ−がどんな顔するか考えるとよ。楽しいしょ? 


ミジンコすかして世界が見える。お洋服泥んこ、田んぼにはまった自転車。空回り。優しいあの人。また来るか白い手。