『黒氷』


黒い氷の表面で、つるつる滑稽に滑っているのを、いい加減もうやめにしたい。こけて倒れたまま、かなたまで擦られゆく。あの、日の出の地点まで、かつぶしのごとく、削られゆく。よい出汁が出て、なみだ、はなじるのような、うまい液体になって、私は、じきに、黒い氷にへばりつく。薄い粘膜になって、削りかすになって、出汁になって、私は、「こける」とか「たおれる」とか「けずられる」とかいうもの、そのものになって、かたちをなくして、こまぎれになって、枝葉をなくして、芯もなくして、おおごとになって、つじつまがあわなくなって、死んでしまって、焼けてしまって、焼けただれてしまって、氷の上で燃えかすになって、こうやって、こうやって、うごめくこともやめて、ひからびて、乾燥して、ぱりぱりになって、こなごなになって、きらきらになって、黒い太陽に反射して、きれいになっていくのだ。合唱。